河合凱夫の俳句


 軸前主宰河合凱夫は、大正10年3月8日、埼玉県北葛飾郡三輪野江村(現吉川市)に生まれました。
 小学生時代、担任の先生の導きで俳誌「桜草」に入会。岡安迷子の指導を受けています。
 昭和11年、千葉県立野田農学校時代に、「南柯」野田支部の句会に参加。15年には、戸張錦秋の名で、渡辺志豊主宰の「南柯」同人となります。

 上京して専売公社に務めた凱夫は、中央大学法学部に学びながら、「南柯」芝支部を創設。長谷川天更主宰の「東南風」の編集も手伝います。

 昭和17年、専売公社を退職し、大学も中退して予備士官学校に進んだ凱夫は、入営を目前に処女句集「藤の實」を上梓。犬山の連隊に配属になってからも作句を続けました。「藤の實」には14才のときの作品も収められています。

 戦後は自ら「野ぶどう」を主宰。高梨花人の「花俳句」や大野我羊の「東虹」の同人となって、花俳句作家賞や東虹作家賞を受賞。一方で中島斌雄の主宰する「麦」の同人としても活躍し、現代俳句協会に所属して精力的な活動を続けました。

 昭和42年、志を同じくする仲間と「軸」を創刊。47年に主宰となって、以降1冊の欠刊も遅刊もなしに「軸」の発行を続けました。

 平成11年7月29日、腹部大動脈瘤により逝去。享年78歳。

 句集に「藤の実」「対峠」「飛礫」「河合凱夫句集」「草の罠」「河合凱夫全句集」。随筆集に「くすのき春秋」ほか。平成12年には遺句集「はればれと」が沖積舎より刊行されています。

 千葉県俳句作家協会会長、現代俳句協会監査、朝日新聞千葉版俳壇選者などを務めました。

 利根水系の自然や水田を背景に、生活者としての実感を詠い、「水の詩人」と称されています。


河合凱夫作品研究  By 秋尾 敏


河 合 凱 夫

   句集 『藤の実』    「麦」入会のころ    句集 『飛礫(つぶて)』     『軸』 巻頭句


      河合凱夫 今月の句   

   油 彩  平成11年8月号(河合凱夫最後の作品です)

 稲妻の切っ先鈍る夜の河
 脱ぎ捨てしシャツ夏山の容(かたち)なす
 一本のロープに縋る声暑し
 梅雨暗し油彩の中に藍の粒
 ここで終らじ風の出口の菱の花
 しろがねの自転車はしり去る網戸
 驟雨に混む電車誰かの骨鳴れり
 黒いページに時計の音が蒸れて夏
 梅雨怖しキャベツから水にじみ出て